高齢の心不全患者の管理
サクビトリル/バルサルタン(ARNI)、MRA、SGLT2阻害薬などの薬剤が使用可能となる以前のデータであるが、本邦におけるWET-HF試験1)からは、<80歳の急性心不全患者ではガイドラインに基づいた治療(βブロッカー+ACE阻害薬/ARB)を行うことで心不全再入院のリスクが有意に低下したのに対し、≧80歳の患者ではガイドラインに基づいた治療によっても心不全再入院を抑制できなかったことが報告されている。
その背景としては、再入院する患者には、塩分・水分制限の不徹底、感染症、過労、治療薬服用の不徹底などが影響しており2)、患者が高齢になればなるほど、このような課題への対策が必要となる。
名古屋ハートセンターでの取り組み
故に、名古屋ハートセンターでは、心不全入院した患者には、内服継続、食事、水分摂取、活動内容や量(運動内容)、睡眠、入浴などの生活状況の聞き取りや、生活上困りごとがないかの確認を行い、患者の生活や意向を踏まえた多職種チームでの心不全カンファレンスや退院支援カンファレンスを行っている。そのうえで病棟看護師による指導介入や退院支援、及びケアマネージャー、在宅医師や訪問看護との連携を図り、退院後も外来看護師による指導介入を実施している。
【図1】
このような対策の結果、2020年12月から2021年5月の心不全看護介入入院患者254人(平均年齢77歳)の再入院率は約8%であった。
さらに、地域連携の試みとして、プライマリケア医の先生方には紹介状のみでなく、より詳細に患者の情報(【図1】)を共有している。しかし、循環器が専門でない、あるいは心不全患者を診る機会の少ないクリニックの先生方もいらっしゃることから、訪問看護を実施する方々を巻き込むために、地域の訪問看護ステーションやいきいき支援センター等に向けて交流会なども実施している。
鈴木氏自身も在宅での心不全管理を行っており、特に入退院を繰り返している高齢患者を頻回に訪問し、再入院には腎機能の悪化やADLの低下が影響していることから、腎機能を維持、ADL維持のための管理に注力している。
心不全の予防
心不全の治療においては、Fantastic Fourという素晴らしい武器を手に入れ、地域連携や訪問診療も組み合わせると、なお良い臨床経過が得られるようになったものの、心不全診療には多大なリソースが必要とされる。従って、心不全に至る前に予防することが何よりも重要である。
Tromp氏らの研究3)からは、高齢者と比較して若年者では、高血圧、糖尿病、喫煙、MI歴が心不全により大きく影響することが示されている。また、EPOCH-JAPANのメタ解析4)からは、120/80mmHgを超えて血圧が上昇するほど、脳心血管病による死亡リスクが上昇することが報告されており、中でも高血圧の影響は40-64歳の中壮年層において最も顕著に認められた。
高齢の高血圧患者におけるサクビトリル/バルサルタン
つまり、ステージAの段階から、高血圧の管理に介入していく必要があると考えられる。高齢の高血圧患者において、ARNIとオルメサルタンを比較したPARAMETER試験5)では、ARNI 400mg/日の投与は、オルメサルタン50mg/日の投与と比較して、12週間で中心収縮期血圧、中心脈圧を有意に低下させ、夜間の血圧低下もARNIで顕著であることが報告されている。さらにNT-pro BNP値も有意に低下させ、心負荷を軽減する薬剤であると言える。
Schmieder氏らが実施した無作為化試験6)では、高血圧患者において、ARNIはオルメサルタンと比較して、降圧効果のみならず、心血管予後に関連するとされる左室重量を低下させることが示され、高血圧治療の目標を心不全予防と捉えると、一次予防の観点からもARNIが有効であることが示唆されるデータである。
これらのエビデンスからは、ステージBの高血圧合併症例でBNP/NT-proBNP上昇傾向、心拡大傾向の症例や、ステージAの高血圧症例で、左室肥大やBNP/NT-proBNP上昇傾向など循環器系の臓器障害のある症例ではARNIが有用であると考えられる。
退院後回復期、維持期の管理
急性期病院では入院から退院を診ているが、循環器疾患患者の退院後から維持期の管理が課題となる。実際、心不全患者の虚血性心疾患、弁膜症、心房細動などに対し根治治療を行っても、術後7-8年が経過するとLVEFの低い患者さんは心不全のリスクが高まることから、このような患者さんを如何に心不全にさせないかに注力し、リハビリなどを活用する必要がある。
心不全再入院症例の予後は不良であり、初回心不全入院の際から疾病管理、セルフアセスメントを含めた患者・家族の教育は非常に重要と思われる。また、心不全の疾病管理は急性期病院だけでは困難となってきており、地域連携が非常に重要な役割を果たすことになっていくと考えられる。
参考文献
- Akita K, et al. Int J Cardiol. 2017; 235: 162-168
- Tsuchinashi M, et al. Circ J. 2000: 64: 953-959
- Tromp J, et al. BMJ. 2021; 372: n461
- Fujiyoshi A, et al. Hypertens Res. 2012; 35: 947-953
- Williams B, et al. Hypertension. 2017; 69: 411-420
- Schmieder RE, et al. Eur Heart J. 2017; 38: 3308-3317
鈴木 頼快 氏
【ご略歴】
1997年
名古屋大学卒業
1997年
市立岡崎病院
2001年
豊橋ハートセンター
2002年
岡崎市民病院
2005年
スタンフォード大学
2008年
岡崎市民病院
2009年
名古屋ハートセンター