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不整脈医と虚血医で考える心臓死予防 ~適切なICD/CRT-D治療を実施するには~

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世界的なエビデンスからICD、CRT-Dが心臓死の予防に有効であることが示されているにもかかわらず、諸外国と比較して本邦ではこれらのデバイスの植込み率は非常に低い。今回、浦添総合病院の仲村健太郎氏より、ICD、CRT-D植込みに対する障壁についてお話しいただいた。

ICDによる心臓死の一次予防効果

現在、最も不整脈死を予防できる治療はICDである。ICDは本邦では1996年に保険適用となり、二次予防としての使用には議論の余地がない。

一次予防に関しては、SCD-HeFT試験1)において、NYHAクラスⅡ、又はⅢ、LVEF≦35%の標準治療を受ける患者を対象とし、従来の治療、従来の治療+アミオダロン、従来の治療+シングルリードのICD植込みを受ける群に割り付け、ICDの植込みを受けた群でのみプラセボ群と比較して有意な全死亡率の低下が認められたことが報告された。本試験の結果は、世界各国のガイドラインに反映されている。

ICDによる心臓突然死の一次予防におけるNNTは、MADIT試験では4、MADIT Ⅱ試験では18、SCD-HeFT試験では13を示した2)。ST上昇型MIに対する血栓溶解療法と比較したPCIのNNTは46である3)ことからも、ICDの一次予防効果が高いことが分かる。

日本人は突然死しにくいというのは本当なのか?

【図1】PARADIGM-HF試験における地域

日本人は非虚血性心疾患が多く、外来フォローも欧米よりも丁寧に実施されているため、突然死しにくいと言われることがある。しかし、東北地方を中心に実施されたCHART試験4)からは、LVEFが<30%の心不全患者では3年で15%に心臓突然死が認められた。この数字はSCD-HeFT試験のプラセボ群とほぼ同等であり、日本人が心臓突然死しにくいということはない。PARADIGM-HF試験の解析5)からもICD植込み数と突然死率は逆相関があるとされ、ICD植え込み数が少ないアジア人では突然死が多いことが報告された(【図1】)。

日本のガイドラインにおけるICD一次予防適応

日本のガイドライン6)では、欧米のガイドラインでICD一次予防適応のクラスⅠの推奨となっているSCD-HeFT試験の患者基準はクラスⅡaであり、非持続性心室頻拍を含めた以下の基準をすべて満たす患者がクラスⅠとされている。下記は本邦の不整脈非薬物治療ガイドラインにおける冠動脈疾患、非虚血性心疾患に対するICD一次予防のまとめになる。

クラスⅠ
  • ① 冠動脈疾患(心筋梗塞発症から40日以上経過、冠血行再建後90日以上経過)
        または非虚血性拡張型心筋症
  • ② 十分な薬物治療
  • ③ NYHAクラスⅡ以上の心不全症状
  • ④ LVEF≦35%(EPSでVT/VFが誘発される場合は40%以下)
  • ⑤ 非持続性心室頻拍
クラスⅡ
  • ① 冠動脈疾患(心筋梗塞発症から40日以上経過、冠血行再建後90日以上経過)
        または非虚血性拡張型心筋症
  • ② 十分な薬物治療
  • ③ NYHAクラスⅡ以上の心不全症状
  • ④ LVEF≦35%

CRT-DのNNTは?

ポンプ不全(心不全)死を防ぐ効率の良い治療としては、CRT-Dが挙げられる。CARE-HF試験7)からは、LVEFが≦35%、NYHAクラスがⅢ、又はⅣのQRS>120msの患者において、薬物療法と比較してCRT-D治療は全死亡率を低下させ、2年のNNTは14と、非常に有効な治療であることが示された。

デバイス植込み数は適切か?

【図2】

国際的な調査8)からは、100万人あたりのICD/CRT-D植込み数は、日本はアメリカの10分の1程度であり(2009年調査 アメリカ434例 vs 日本42例)、諸外国と比較しても顕著に少ない(ドイツ290例、イタリア174例、オーストラリア160例)。また、国内の調査では、【図2】のように地域により大きなばらつきが認められる。

日本ではCRT-P/CRT-Dの植込み数も少なく、2014年のデータでは100万人あたりの植込み数は、アメリカの331例、ヨーロッパの160例、オーストラリア/ニュージーランドの93例に対し、日本では31例である9)。国内のデータではCRTは都道府県により12倍の格差が認められ(【図3】)、ICD(【図4】)よりもその差が顕著である。

【図3】

【図4】

国内におけるCRT-D植込みへの見えない壁

【図5】

欧米のデータを基準とすると、日本では潜在患者の約17%しかCRT-Dの植込みを受けていない。

  • クリニックに留まっている
  • CRT非植込み施設に留まっている
  • CRT認定施設の非植込み医のところに留まっている
  • 植込み医の診療を受けるが植込みをされてない

と、各所にバリアがあり(【図5】)、このバリアを外すことで患者にとって適切な治療が行われるのではないかと考えられる。

CRT植込み施設内における障壁

CRT植込み施設における調査からは、CRTを植込まない理由として、植込み医の約2割が「手技においてハイリスクと想定されるため」と回答していた10)

ヨーロッパにおける調査11)では、CRTの植込みを行っている医師は、不整脈医が77%、インターベンション医が12%、外科医が4%と、不整脈医による植込み率が日本よりも高い。また、手技時間は中央値で90分であるのに対し、日本では平均約190分とのデータがある。

3時間程度要する手術には胸骨正中切開CABGが挙げられ、2時間以上かかる手術は感染リスクが高いことは昔から知られている12)。60の研究のメタ解析からは、ペースメーカの感染リスクとして、長い手技時間(WMD 9.89 [0.52-19.25])、血腫(OR 8.46 [4.01-17.86])、リード脱落/再固定(OR 6.36 [2.93-13.82])などが挙げられている13)。つまり、術者の手技が予後に大きな影響を与えることがわかる。

故に、当院ではデバイス植込みをより短時間で行うための戦略として、教育、無駄の削ぎ落し、術者としてのスキルアップ、術前の手術戦略の構築、イメージトレーニングなどを行っており、昨今ではデバイスの改良も進み、新規CRT植込みの手技時間の中央値は60分程度である。60分程度の手技であれば、「ハイリスクな手技」とは捉えられないのではないだろうか?

不整脈医と虚血医の交流が鍵となる

ICD/CRT-D適応症例を紹介いただく中で、PCI数(循環器内科の活動度としての指標)とICD/CRT-Dの新規症例数に相関があるのではないかと考え、解析すると、その傾向は見られたものの、明確な相関関係は認められなかった(y=0.008x1.11、r=0.141)。

また、植込みデバイスの国内における比較から、様々な解析を行ったところ、ペースメーカとCRTは適応を決めている医師が異なり、且つ十分なコミュニケーションが取れていない可能性が高いと考えられた。

【図6】

2006年の沖縄県のデータで、仲村氏自身の交友のある医師が所属している施設とそうでない施設に分けて解析を行うと、PCI数とICD/CRT-Dの新規症例数に相関関係が確認され、交友のある医師が所属している施設では、PCI約25件につきICD/CRT-Dが1台植込まれていたのに対し、そうでない施設ではPCI約110件につきICD/CRT-Dが1台であり、両群間に交互作用が認められた(【図6】)。

不整脈医は冠静脈洞(CS)エンゲージがうまく、一方でワイヤ操作やバックアップの取り方などのリード留置手技を苦手とし、インターベンション医はCSエンゲージが苦手であるもの、ワイヤ操作やバックアップの取り方などのリード留置手技が上手であり、得手不得手がある。故に、両治療の専門医が知識や経験を共有することが大きな意味を持つと考えられる。

デバイス治療は患者の予後を大きく左右する。日本の心疾患診療の中心はインターベンション医であり、不整脈に携わる医師と虚血を専門とする医師がコミュニケーションを深め、両者でともに心臓死を防ぐことが重要である。

  1. Bardy GH, et al. N Engl J Med. 2005; 352: 225-237
  2. Health Quality Ontario.Ont Health Technol Assess Ser. 2005; 5: 1-74
  3. Keeley EC, et al. Lancet. 2003; 361: 13-20
  4. Shiba N, et al. Vasc Health Risk Manag. 2008; 4: 103-113
  5. Rohde LE, et al. JACC Heart Fail. 2020; 10: 844-855
  6. 日本循環器学会/日本不整脈心電学会.不整脈非薬物治療ガイドライン(2018年改訂版)
    https://www.j-circ.or.jp/cms/wp-content/uploads/2018/07/JCS2018_kurita_nogami.pdf 2023年10月閲覧
  7. Cleland JGF, et al. N Engl J Med 2005; 352:1539-1549
  8. Pacing Clin Electrophydiol. 2011 34: 1013-1027
  9. US third party data and us census for 2014
  10. M3, Inc. Market analysis
  11. Dickstein K, et al. Eur J Heart Fail. 2018; 20: 1039-1051
  12. Rogers CA, et al. Thorac Cardiovasc Surg. 2013; 146: 306-316
  13. Polyzos KA, et al. Europace. 2015; 17: 767-777
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